Quatre Amoursの日記

一人のクリスチャンが聖書や社会について考える

ファーウェイのニュースまとめ

二年前くらいからファーウェイについては知っていて、タブレットスマートフォンを使っていて、今後のファーウェイの展開に注目していただけに、最近のファーウェイに関するニュースは、注目してみている。

当初は、ファーウェイについてほとんど知らない人間が、急ごしらえで作ったような記事が多く、ほとんどがアメリカ政府や日本政府、あるいはアメリカの報道の受け売りのようなものばかりだった。
大雑把に言えば、「ファーウェイは中国政府のいいなり」であり、民間の企業のふりをしながら通信機器を世界展開し、それが中国政府につながるバックドアが仕組まれているので、安全保障上極めて問題である、だから、日本の5Gや公的通信設備からファーウェイ(とZTE)の機器は排除しなければならない、という論調が支配的だった。
今までファーウェイといえば、シムフリー界隈で知名度が高く、ガジェット好きや通信インフラに関心のある人が記事として扱うことが多かった。また、近年では、アメリカのGAFAに対する中国のBATに、ファーウェイも加えながら論じられることもあった。
ところが、ファーウェイのFCOが逮捕されてからは、普通のメディアでもファーウェイが扱われるようになった。今まで名前も聞いたことが無い、どうやら中国の最近調子がいい企業らしい、アメリカ政府から長年スパイ扱いされている企業らしい・・・その程度の知識の人々が記事を書かねばならなくなったのだから、どうしても日米政府発表の受け売りのようにならざるをえなかったのかもしれない。とりわけ、読売新聞と産経新聞は、とてもイキイキして「中国危険」「中国企業排除」を主張するようになった。
ほんの一ヶ月前までファーウェイについて語っていたテック業界に詳しい面々は、逆に表に出てこなくなった。

そのような中でも、私は初めて名前を知ったが、遠藤誉という方が、当初からすごく冷静にこの事件を分析していて感心した。個人的には、遠藤さんの方向性は賛同はしないが、しっかりとした事実認識に基づくファーウェイ評価については同意できるところがあった。中国語文献にアクセスでき、独自に調査もしてきたことが、他の表面的な新聞記事とは違った重みを、彼女の各エッセイに与えていた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20181207-00106936/
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20181212-00107374/

比較的早い時期に記事を書いた、昔からファーウェイを扱ってきたテック業界の人物としては、石川温さんがおられる。これは長年テック業界を取材してきた人物による冷静な分析である。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181213-00000011-ascii-sci

このような例外を除くと、当初では、「反中国」「反ファーウェイ」「中国製機器排除」の論調が支配的だった。概ね、ファーウェイとZTEを両方まとめて「中国企業」と考え、どちらも「中国政府の言いなり」だから「あぶない」という論調ばかりであった。

こうした当初の論調を見ながら、私がまずはじめに感じたのは、「付和雷同」という言葉だった。

ふわ-らいどう【付和雷同
自分にしっかりとした考えがなく、他人の言動にすぐ同調すること。▽「付和」は定見をもたず、すぐ他人の意見に賛成すること。「雷同」は雷が鳴ると万物がそれに応じて響くように、むやみに他人の言動に同調すること。「雷同付和らいどうふわ」ともいう。「付」は「附」とも書く。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E4%BB%98%E5%92%8C%E9%9B%B7%E5%90%8C/

これまで生きてきて、日本人は多分に「付和雷同」な民族だという印象がある。今回のファーウェイの件についても、同様な印象を最初に持った。ファーウェイがどのような起業かを知らない人間が、また、セキュリティについて深い知識も理解もない人間が、突然「ファーウェイ、ZTE、中国企業、危険!」と言い始める。しっかりとした認識や理解にもとづいていない考えや行動は、本人は「自由」と考えているとしても、それは錯覚で、実は大衆的・通俗的感情に流されているだけで、本来的には「自由」ではないのだと思う。実際、こういう事件をきっかけとして、古い中国人(中国)への偏見、つまりステレオタイプが復活したのだ。本来的に人間が自由になるためには「労苦」が必要であり、それは、「しっかりと認識する」という苦痛を経なければならない。その苦痛を省略して、外から与えられる意見をそのまま取り入れることは、自由ではなく「隷属」なのだ。だから、こうした付和雷同精神のもとでなされる行動というのは、私としては、まさに「自由の敵」であると考えるのである。

次に感じたのは、中国やファーウェイに対する言説そのものが、中国と日本との関係を屈折した形で覆い隠しているのではないか、ということだった。
中国と日本との関係、より具体的に言えば、ファーウェイやその他のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)と日本の経済界との関係である。
それについては、事件が少し過ぎてから扱われ始めた。というよりかは、事件当初に沈黙せざるをえなかった人々が、少しずつ話し始められるようになってきた、と言えるかもしれない。
https://blogos.com/article/345611/
https://getpocket.com/a/read/2423852061
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181218-35130213-zdnet-sci
https://getpocket.com/a/read/2424683414
二つ目の記事の方で、近藤大介さんの言葉が引用されている。

中国ビジネスに詳しい現代ビジネスのコラムニスト・近藤氏は、「日本企業が中国企業を部品メーカーと考えていたが、今は逆転しつつある。最先端のものに限っていうと、日本企業が中国企業の下請けになっている」と、今やファーウェイは、日本企業を凌駕する存在になっていると分析する。

これは、現状の日本企業と中国企業との関係を端的に物語っていると思う。つまり、以前は、日本企業が「設計」して中国企業が「製造」していたのに対し、今では、中国企業が「設計」し、日本企業が「製造」する(部品を供給する)という関係になっているのである。
これは、ある世代の日本人にとっては、とてもじゃないが認めることのできない事実だろうと思う。
私の親世代などがそうかもしれないが、中国製品というと「安かろう悪かろう」と考えている。そして「日本製品が一番」と思いこんでいる。今でも、日本の携帯、テレビ、パソコン、冷蔵庫、洗濯機、自動車が「一番」だと思っている。つまり「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ということだ。
この世代の人々は、中国人はずる賢く、模倣品ばかりを作り(独創性がない)、利益のためには平気で反道徳的なことをすると思っている。それに対して日本人は、真面目で、責任感があり、人権を尊重し、道徳的だ、と思っている。そして、中国(中国人)は「危ない」と考える。
このように考えている世代にとって、実は日本企業よりも中国企業のほうが「先端的」で「グローバル」であり「イノベーティブ」という事実は、すごくショッキングであるだろう。そして、認めることのできないことだろう。そして「安かろう悪かろう」ではなく「安いけどハイクオリティ」であり、その立場から見るならば、日本の製品は「高いのに普通のクオリティ」でしかないという事実は、受け入れがたいことだと思う。
今回のファーウェイの事件というのは、この世代の人々にとっては、「あぁ、やっぱり中国人というのは、ずる賢いんだ!」というこれまでの固定観念をより固定化するのに役立っているように思う。
潜在的中国企業のほうが進んでいると感じている人にとっても、今回の事件は、「やっぱり中国はだめだ!」と思う論拠になり、安心を与えるものだろう。
そして、こういう人たちと「アンチ中国」の人々とが一緒になって、「中国はだめ、日本はOK」という幻想を強化する――そのための都合の良い出来事になっているのが、今回のファーウェイの事件なのではないか? そういうことを考えていた。

ファーウェイがこのような形で一般の人にも知られるようになり、残念だと思う。
私は、上に述べたような日本人の中国人に対する錯覚・幻想が(それだけではないが)日本の経済的な停滞の要因の一つなのではないか、と思っている。いつまでも「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と思い込み、本当は世界はもっと先へ進んでおり、ずっと「遅れて」いて「下」だと思っていた中国が、実は自分たちよりも「進んでいて」「上」に立っているということを認めること、そして、謙虚に自分たちの後進性を認めてラディカルに改革していくこと、これが、日本が現在の停滞から抜け出るために必要だと思う。そしてそのための最もよい見本がファーウェイだった。ファーウェイの製品を普通の日本人が使うならば、これまで日本人が中国人(中国企業)に抱いていた幻想が打ち砕かれることになっただろうと思う。そしてそれをきっかけにしながら、中国や中国企業を見直していき、その優れたところを学んでいくようになるならば、日本も変わるのではないか、と思っていた。ところが、今回の事件で、昔通りの日本人の中国に対する幻想が強化されて、中国人・企業の優れた点を見習おうとする可能性が失われてしまったのではないかと思い、残念である。

次のような中立的な記事も出てきた。
こうしたものがもっと主流になればいいと思う。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181218-00010001-binsiderl-int
http://eetimes.jp/ee/articles/1812/14/news036.html
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181218-00188750-diamond-bus_all

ちなみに、ファーウェイは、ヨーロッパのセキュリティ認証機関からも審査を受けて認証を受けていたと思う。セキュリティに関して問題があるとするならば、そのような公的機関の認証の方も疑われるべきではないかとも思う。
身も蓋もない話をすれば、アメリカであれ中国であれ、本気でハッキングをしようとしたら、どの企業のものだろうと関係なくできるのではないか?

今回のファーウェイ事件について否定的なことを語る多くの人は、ファーウェイを知っていたわけでも、ファーウェイの製品を使っていたわけでもない人が多いと思う。いや、実のところ、ルータータブレットを含めると、本当は使っている人が多いのかもしれない。ともかく、自覚的に使っている人はそれほど多くはなかっただろう。
ファーウェイが日本で広まることで、日本の消費者にとってメリットは多いと思っていた。また、日本企業の目を覚まさせるため、そして日本人の目を覚まさせるためにも、ファーウェイは重要だと思っていた。しかし今回の件で、日本人は再び幻想の中に閉じこもることになるのではないかと思うと、残念でならない。